——今回のアルバム、あらためて見ても豪華ですよね。普通、これだけ多彩な人たちを呼ぼうと思ってもなかなか呼べない。単にお金を出せばやってくれるっていうメンツでもない気がしますし。
近藤哲平お金を出せば呼べる人もいるけど(笑)、今回はその逆の人ばっかりですね。
——例えばミラマール(Miramar)は一般的な知名度が高いわけではないけれど、二十代、三十代のラテン・リスナーの間ではすでに一定の人気がある人たちだったりする。そういう”絶妙なツボ”を突く人を厳選しているな、と。それが作風にも出ていると思うんですよね。芯がないようでいて、実はある。でも誰もそれを言葉にすることはできない、みたいな。
近藤哲平それはね、そうだと思いますよ。
——moeさんも、さっき言ったみたいに芯は通っているけど言葉にはできない。そういうところに共鳴し合ってるのかなって。
近藤哲平みんな違ってみんないい、じゃないけど、習い事の話で言うと、昔、クラリネットを独学でやってた時に、ジャズ教室に行こうとしたら、周りに猛反対されたんです。「習ったらつまんなくなるからやめろ」って。でも僕からすれば、習って人格が変わるわけじゃないし、つまんなくなるわけないじゃん、と思ってた。
——嫌ならやめちゃえばいいわけですからね。
近藤哲平そうそう。ビッグバンドでも同じスコアを吹いても人によって違うでしょ。オブトロピークは最終的に入り口(曲選び)と出口(最後のジャッジ)を僕がやってるから、どう転んでも僕が嫌いなものにはならない。それで統一感が出てるんじゃないかな、とは思う。
moe超合ってると思います。でも、それ以前に、単純にすごくいい人というか……体力と面倒見がすごいですよね。
近藤哲平体力と面倒見(笑)。
moe大変だと思いますよ。みんなのところに行って「これやって」「いつまでに」って。
近藤哲平大変だよ。たまにジャズミュージシャンみたいに、5分前にふらっと来て吹いて帰る、みたいなのいいなーって思うよ。でも、いろんな音楽が好きだし、いろんな人とやりたいからね。moeちゃんだって、ハリー・コニック・ジュニアと音を出してみたいとか、映画で共演したいとか思ったことない?
moeないです(即答)。おこがましいっていうか、「あの人になりたい」ならありますけど。ダラー・ブランドになりたい、とか。
——「誰かになりたい」と思っている人が、多重録音でああいう誰でもない音を出す。面白いですよね。根っこに”どす黒いもの”があるから、上がどれだけファーっとなっていても、最後は自分の音になるのかな。
近藤哲平僕は逆に遍歴が真っ当だからね。プリンスからブラックミュージック、ライ・クーダーからルーツミュージックって、全部辿れる王道。だから僕はそんなに”狂気をはらんでいる”わけじゃないんです。だからこそ、こういう”狂気をはらんだ”人が好き。
moeでも、美しい音楽……例えばビル・エヴァンスだって、どこか狂ってるじゃないですか。スキルが既に狂気っていうか。
——”狂気をはらんだ”ものじゃないと、moeさんも面白くないんじゃないでしょうか?
moeでも基本的にほら、アニメの主題歌が好きな人間なんで、そうでもないかも(笑)。
——アニメの主題歌も聴きようによっては、狂気をはらんでいたりしますし(笑)
moeかもしれない
——ちなみに、LPの曲順はどうやって決めたのでしょう?moeさんの参加している「Joy Joy」はA面の最後ですが。
近藤哲平並べて、ひたすら聴いてみた流れですかね。難しすぎて。A面とB面を歌モノで始めたいっていうのはわりとすぐに決まった。面白いかな、と思って。
——面白いですよね。インスト・バンドのイメージが強いから、びっくりする人も多いんじゃないかと思います。
近藤哲平「Joy Joy」はこれまでのオブトロピークのアルバムに入っていてもおかしくない曲ですね。1stの『La Palma』とかに。そういえば、ギターと鍵盤が両方入っている曲がないんですよね、今回。ギターはギターだけ、鍵盤は鍵盤だけ。
moeすごい、面白いですね。聴いていて不思議な感じがしたんですけど、たぶんそれですね。他の曲ではギターがいるのに、鍵盤の曲ではいそうでいないっていう。
——そろそろ締めかな、と思いますが。
近藤哲平moeちゃんの思う「トロピカル・ミュージック」って何ですか?エキゾとかモンドとかでも良いですが。
moeうわ、一週間くらい宿題にしたい……(笑)。
近藤哲平でもジャズの文脈だとあまりトロピカルってないかもね。
moeあるはあるんですけど、ちょっとこうイージー・リスニング的な方面のイメージなのかな。
——カウント・ベイシーでいえば『Afrique』とかトロピカルなのかなって、思うんですがどうでしょう。僕は西アフリカの音楽家たちが影響を受けたもの、逆に与えたものっていう文脈でジャズを聴き始めているのですが、あの作品にはすごくトロピカルさを感じました。
近藤哲平エキゾにしてもさ、マーチン・デニー(=Martin Denny)なんかも音だけ聴くとジャズ・コンボっぽいしね。そんなにアドリブはやってないけれど。トロピカルって、太陽キラキラ、ハッピー!みたいなイメージがあるけど、それをぶっ壊したい。ヨーロッパのシーンでの「トロピカル」も、そんなに南国イエーイって感じばかりでもないし。
moe昔のジャニスには「エキゾ/モンド」っていうジャンルのプレートがありましたよね。
近藤哲平そうそう。「エキゾ/モンド/トロピカル」ってスラッシュで繋げばいいんじゃないかな。解決策は、全部スラッシュで繋ぐことだね。
●PROFILE
▼moe (民謡クルセイダーズ)

ジャズ喫茶マサコの3代目店主。2025年、マサコパルファン店をオープン。 民謡クルセイダーズではキーボードを担当。 トイキーボードやトイシンセを使ったチープでノイジーなサウンドが持ち味。
▼of Tropique (オブトロピーク)

近藤哲平(clarinet)、田名網大介(bass)、藤田両(drums)
クラリネット、ベース、ドラムの3人によるエキゾチック・ファンク・バンド。
2018年にイラストレーターのオタニじゅんと制作したアートブック『La Palma』(オークラ出版)を発表。架空の南の島での冒険を描いた楽曲群がヨーロッパで話題となり、フランスでは2つのラジオ局で同時に特集が組まれた。
2021年より米ワシントンD.C.のElectric Cowbell Recordsから作品のリリースを続け、これまでにアメリカのみならずフランス、ドイツ、イタリア、クロアチアなど欧米各国のラジオ局で楽曲がオンエアされている。2023年のアルバム 『Buster Goes West』(Electric Cowbell Records)は複数の海外メディアで年間ベストにランクインし、Bandcampにインタビューと特集記事が掲載された。また、AppleやGimletをはじめ複数の欧米企業で楽曲が使用されている。
国内では映像作品への参加も多く、東海林毅、冨永昌敬監督作品の音楽やアパレルブランド等への楽曲提供を行う他、『彼女のウラ世界』『僕の手を売ります』などTVドラマの音楽も担当している。
2025年にはアルゼンチンの人気ミュージシャンRolando Brunoとのスプリット・シングル(Electric Cowbell Records)を発表した。
- ディスクユニオン限定で「Joy Joy feat.moe」。タワーレコード限定で「Tiempo feat. Kazuma Koseki」といったアルバム未収録音源CD-Rがそれぞれ特典となっている。 ↩︎
