ドラマーでボーカリストのUが、1stソロアルバム『HEARTRHYTHMO』をリリースした。コレサワや和田彩花らのサポートドラマーとして多忙な日々を送るかたわら、1人でステージに立ち同期も使わずにドラムと歌だけで演奏する“叩き語り”なるトリッキーな表現活動も行う、一風変わったアーティストだ。そんな彼女が満を持して発表するボーカルアルバムには、マキアダチや奥脇達也(アカシック)、コイケヒロユキ、森健司郎といった作家陣が参加。90年代渋谷系の匂いも感じさせつつ、独特の質感をたたえたポップなロックアルバムに仕上がっている。
OTOTSUではU本人に加え、収録曲「Thank Uuuuu for….」を手がけた渡邊忍(ASPARAGUS)、「KUTANI」「ゆ」で詞曲を担当した佐藤嘉風、「ここ」作曲の中込陽大の計4人に集まってもらい座談会を実施。アルバム制作の裏側や、Uというアーティストについての見解などをざっくばらんに語り合ってもらった。なお、中込はスケジュールの都合によりリモートでの参加となっている。
取材・文:ナカニシキュウ 写真:工藤成永 編集:山口隆弘(OTOTSU 編集担当)
■Uちゃんは、ちょっとおかしい人です
──まず、皆さんそれぞれUさんとのご関係を教えてください。
俺はもしかしたらみんなより浅いんじゃない?
そうですね。
もともとは知り合いの知り合いみたいなところから始まって、誰かのライブで会えばしゃべったりするくらいの間柄で。音楽的な絡みというよりは、ミュージシャン仲間の界隈にいるうちの1人みたいな感じかな。
僕も最初は知り合いのミュージシャンをサポートしてるいいドラマー、みたいな認識でした。なかなか一緒に演奏するタイミングはなかったんですけど、付き合いのある仲間が一緒で、近くにはいるみたいな。それから僕のソロ作品で叩いてもらったりもするようになっていって。
よしのりさん(佐藤)とはNIHONGO DANCEというバンドを一緒にやったり、彼が曲を書いているnuanceっていうアイドルグループのバックで演奏したりもしています。最近一番いろいろ一緒にやっている人ですね。
僕はたぶん10年くらい前になると思うんだけど、Uちゃんがオードリーシューズってバンドをやっていたときに対バンしたのが最初です。ドラムを叩きながら歌っていたのがすごく印象的で、そのときはそんなにちゃんとしゃべらなかったんですけど、ずっと記憶には残ってたんです。で、何年か前にどっかで再会したんだよね。
原宿ストロボカフェかな。私が叩き語りで出ていて。
そうだ。そこで初めてちゃんと話して、そのあとに自分のソロライブで叩いてもらったんです。2人だけの編成でやったんですけど、それがすごくよかった。そのときに演奏した僕の「邦画みたいな青」という曲を、のちにUちゃんがソロライブでカバーしてくれたりもしていて。
──Uさんが今回、そんな皆さんに楽曲制作を依頼した意図はどんな感じなんですか?
まず、だいぶ前からお世話になっているディスクユニオンの方から「Uちゃん、そろそろ自分のアルバムどう?」というお話をいただいた段階で、「でも私は曲を作らないから、作曲は誰かに頼まなきゃいけないな」ということになって。それを考えたときに、「たとえば忍さんにお願いできないかな?」って、なぜかパッと思いついたんです。
話が来たときはもちろん「全然やるよ」という気持ちだったけど、「俺でいいのかな?」とも思いました。これまでにUちゃんがやってきた音楽の傾向を考えたら、相性としてどうだろうと。
私としては音楽ジャンルというより、忍さんの話す内容や着てる服、どういう人たちと友達かみたいなところで「この人にお願いしたい」と思ったんですよね。
うん。だから、どういう曲が上がってくるかではなく、パーソナルな部分での指名だったんでしょうね。そういう意味では、ちょっとおかしい人です。
おかしくないですよ!(笑) そのあと忍さんが過去に他アーティストへ提供した曲とか、プロデュースしたアルバムとかをいろいろ聴いて、やっぱり思っていた通りのプロデューサーさんだなって思いました。順序としては逆ではあるんですけど(笑)。
自分がプロデューサーだっていう感覚がないんで、そう呼ばれることには若干の申し訳なさみたいなものがあるんですけどね。好きなことではあるから、すごくがんばれるし楽しいんだけど、ちょっと据わりが悪いというか。プロデューサーっていうとさ、ふんぞり返る感じじゃない? 「俺の言うこと聞いときゃいいんだよ!」じゃないけど。
──トレーナーを引っかけて?
そうそう(笑)。
昭和のプロデューサー(笑)。
それは冗談としても、今回佐藤さんが手がけた曲なんかを聴かせてもらうと、やっぱり違うなあって。よくできてんのよ。すごく無駄がないし、印象づけるポイントもちゃんと持たせてある。「こう行くのかな? あ、行かないんだ?」みたいな。プロフェッショナルを感じますよね。なんとかの流儀じゃないけど。
(笑)。僕もべつに専門的な音楽教育を受けてきた人間ではないし、そういうのは縁遠い世界の話だと思ってたんですけど……。食っていくためにいろんな球にバットを振っていたら、だんだん作家仕事の比重が大きくなっていって、流れ着いた先がたまたまそういう場所だった感じなんですよね。
当初は近しいミュージシャンにはあえて頼まない方向で考えていて、よしのりさんとかはがんばって外してたんですよ。でもやっぱり、最新の私を知ってくれている人に書いてもらう曲もあったほうがいいなと思い直して、今回お願いしました。ゴメスくん(中込)に関しては、さっきも話に出た「邦画みたいな青」という曲がすごく好きだったから、同じように気持ちが落ち着く雰囲気の曲を書いてもらいたいなと思ってお願いした感じです。
■この曲があれば「ゆ」も入れられる
──実際の制作はどのように進めていったんでしょうか。
「ゆ」は、もともとNIHONGO DANCEの曲としてだいぶ前によしのりさんが作ってあったもので。
作ったはいいものの、ちょっとコメディ感が出すぎちゃうかもと思って「さすがにないかな」と置いといた曲なんです。ずっと出すタイミングを見計らってはいたので、Uちゃんから今回の話をもらったときに「一応こういうのがあるっちゃあるけど……」って恐る恐る出してみて。
最初にデモを聴かせてもらったときは、「これはこれで最高だけど、独特な曲だからアルバムの中でうまく混ざらないかもしれないな」と思って。それで「改めて1曲書いてもらうことはできる?」とお願いして、「KUTANI」を書いてもらったんです。そしたら「この曲があれば、バランス的に『ゆ』も入れられる!」となって(笑)。
「KUTANI」は「ゆ」とは全然違うベクトルで、Uちゃんの生い立ちも踏まえて書こうと考えました。家業で九谷焼を売っている家に生まれたこととか、Uちゃんの中にある和洋折衷みたいな要素を表現したいと思って。
俺は「ゆ」にもけっこうUちゃんのイメージを感じるけどね。この世界観を歌える人、なかなかいないよ? 「風呂に入ろうよ」があざとくならないのはすごいし、嫌な感じがしないんだよな。
確かに。
歌声の感じとかに和のテイストを持ってるから、それも生かせてるなと思うし。ほかの楽曲もそうなんだけど、そういうパーソナルな部分をもうちょっと俺も汲めたらよかったのかなと思うくらい。音楽的にどうこうという以上に、本人の世界観を表現するものになっているというかね。
でも、忍さんの手がけた「Thank Uuuuu for….」は衝撃的でしたよ。めちゃ音がよくて、ギターの音色とかコード感とかも含めて海外の音楽みたいというか。それでいてUちゃんらしさもあるし……。実はその音源を先に聴かせてもらっていたので、自分の作るものが和風の叙情感に引っ張られすぎないように、忍さんの洋楽感とのバランスはかなり意識しました。だから、僕はてっきり「Thank Uuuuu for….」が先行リードトラックになるものとばかり思っていて、まさかの「ゆ」が選ばれてびっくりしたくらいです。
■次のテイクで奇跡が起こるかもしれない
僕は「ここ」という曲を書かせてもらったんですが、最初にUちゃんから「ピアノで歌いたい」と言われていたので、ピアノを主体に考えていきました。実はこの曲、打ち合わせをほとんどしなかったんですよ。Uちゃんとは世代が近いこともあって共通の音楽体験がいっぱいあるから、おのずと通じ合う部分があったんだと思うんですけど。
そうだね。今回のアルバムでは一番やり取りが少なかったと思います。レコーディングもすごく変わったやり方で、まずゴメスくんがフリーテンポでピアノだけを録ったデータを送ってくれて、それを聴きながらドラムと歌を録音して返して。そのあとはゴメスくんのほうで残り全部を入れてもらいました。
僕はもともとそうやってクリックなしで録るのが好きで、そういうテンポ感を大事にしているところがあるんですよ。最初に「この曲をどうやって完成させていこうか」という相談をしたときに、「クリックなくていいんじゃない?」みたいな話をすでにしていた気がします。
──そのやり方は、Uさんをドラマーとしてかなり信頼していないとできないですよね?
もちろんそうですね。以前一緒にやったときの感覚で「絶対に大丈夫」という確信があったので、レコーディングには一切立ち会ってないんですけど、まったく心配はしてなかったです。
俺と正反対だね。俺はしつこいから(笑)。「もう1回やっちゃおうか」みたいな、おかわりおかわり、替え玉替え玉だから。自分の作品を録るときも毎回そうなんですけど、「このテイクでも全然いいけど、もしかして次は奇跡が起きるんじゃ……?」ってつい思っちゃうんですよね。Uちゃんも「私、今回のアルバムで一番やり直しさせられました」って。
そんな言い方してない(笑)。忍さんの曲は、レコーディングからTDまで全部忍さんのところでやっていただいたんです。
やっぱりプロデュースっていうのは難しいですね。俺はちょっと情緒不安定なところがあるんで(笑)。本当はもっとクールに、相手の気持ちを察しつつ進めないといけないのに、つい熱くなったり、テンションの上下がすごい。もっとドライにやるつもりだったのに、マグナムドライになっちゃいました。
忍さんの場合は、むしろそれがいいんですよ。もの作りの教科書みたいというか、私がいかに普段余計なことを考えているかを痛感しました。忍さんとの作業では全部が「いいものを作る」方向だけを向いているんですよね。結果的に無駄になったように見える作業もたくさんあるんだけど、余計なことがひとつもないっていうか。見ているところが一貫してるから、「そういえば子供の頃はすべてをこういう感じでやってたな」みたいな感覚を思い出せた部分があったと思います。
■Uちゃんが発音する「かぼちゃ」を聴いてみたかった
──ところで皆さんは、Uさんのことをどんなボーカリストだと認識していますか?
ドラマーとしての活動がメインということもあって、楽器を主戦場にしている人ならではの歌だなと感じますね。単に歌だけ歌っている人……って言うと聞こえが悪いですけど(笑)、そういうシンガーにはないリズム感だったり強弱だったりというのがある。音楽的な意図とリンクさせようという意思がしっかり見えるボーカリストだなと思っています。
僕はUちゃんの日本語の発音がすごく好きで。以前、僕の作った曲の仮歌をお願いしたときに「ここはちょっと強く出せない音にしちゃったな、あとで歌詞を書き直さないと」って思っていた箇所があったんですけど、とりあえずそのままUちゃんに歌ってもらったら、その部分がめちゃめちゃ明瞭に出てて。「すげー」と思いました。それがきっかけで、日本語の響きをテーマにしたNIHONGO DANCEの結成につながるんですけど。だからボーカリストとしては、日本語発音の……。
──スペシャリストみたいな。
そうですね(笑)。
あははは(笑)。
今回の曲でも日本語の響きにはこだわっていて、「KUTANI」では和っぽいメロに「かぼちゃ」という言葉を乗せてみたりしました。Uちゃんが発音する「かぼちゃ」を聴いてみたいな、という感じで。
ハードなファンにはたまらないよね。吐息ひとつ、ブレスひとつでハアハアできちゃう。ヨダレもんですよ。
違う用途の作品になっちゃう(笑)。
でもね、彼女はそういう部分も持ってますよ。エロとは違うんだけど、一度ハマったら抜けられないものがある。違法薬物じゃないけど、違法人間というか。
違法人間て(笑)。
──クセのある食べ物みたいな感じですかね? 一度この味を覚えたら病みつきになっちゃうみたいな。
そうそう、クセが強いんですよ。クセの強さってすごく重要じゃないですか。今は世の中がこれだけ便利になっていて、歌い方ひとつ取ってもYouTubeを観ればいくらでも学べるし、どんな音が流行っているのかもすぐに調べられる。そういう時代だからテクニック的にうまい人なんて腐るほどいるわけで、そこで大事になってくるのはやっぱり個性だから。
■これからの5年10年が大事
──そろそろ締めに入りたいんですが、皆さんがこの先Uさんに期待することは何かありますか?
普通に人気者になってほしいですね。Uちゃんの音楽って、彼女自身のパーソナリティ込みで成立しているエンタメだと思うんですよ。いろんな引き出しを持っている人だと感じるので、音楽にとどまらず、ラジオだったりテレビだったり、それ以外のところにもどんどん出ていってほしい。その中のひとつに音楽がある、くらいの感じで活躍してもらいたいですね。
やっぱり女性なんで、いろいろ気にすることも多いと思うんですよ。年齢的なことも……わかりませんけど、たぶん男よりは気にするでしょう。だけどね、いま佐藤さんも言ったように、Uちゃんはそれを超えられると思うんですよね。まだ何色にでも染まれる感じは全然あるし、でもやっぱり念が強いから、あとから違う色が出てきちゃうみたいな(笑)。それがハードなファンにとってはたまらなく気持ちいいんです。それを外見や肉体からではなく、歌声や演奏のリズムによって出してくるところがいいんですよ。
──ええと、つまりどうなってほしいわけですか?
つまり、そのままでいてください。……やべ、内容なかった(笑)。
一同 あははは(笑)。
僕はそんなにUちゃんのプライベートを深く知っているわけでもないんですけど、聞く限りでは面白そうな生活をしている人だなと感じています。これからの5年10年が、ミュージシャンとしても女性としても、人間的にも大事な時期になってくるんだろうなと。今回アルバムも出たことですし、これをきっかけにいろんなことがいい方向へ進んで、いい人生になっていったらいいなと思いますね。
本当に今回、みんなにはいい時間を、楽しすぎる時間を過ごさせてもらいましたし、逆に言えば、それはすごく自然な時間でもあって。この先、私もいろんなことをやっていくと思うんですけど、また一緒に楽しんでもらえたらうれしいです。末永く。
まあ、今回絡んだ男たちは全員元カレみたいなもんですから。
違います。
もっと新しい人を見つけて、先に進んでもらいたい気持ちはみんなあるんじゃないですか? 僕らがまた呼んでもらえたらもちろんうれしいですけど、元カレに縛られずに新しい恋をしてほしいですよね。ねえ、ゴメスくん。
……はい。
完全に言わせてますけど(笑)。
RELEASE INFORMATION
HEARTRHYTHMO
U
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